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「ネット社会とメディアリテラシー」]

2008.9.20

第9回公開研究会報告
「ネット社会とメディアリテラシー」

第9回公開研究会報告 ■日 時:2008年9月20日(土)14時〜18時
■場 所:東京大学本郷キャンパス工学部新二号館9階93b
■参加者:約60名
■テーマ:「ネット社会とメディアリテラシー」

■タイム・テーブル(予定)
 14:00−14:10 ご挨拶(メル・プラッツ事務局)
 14:10−14:50 プレゼンテーション(1)
         前田邦宏(株式会社関心空間代表取締役)
 14:50−15:30 プレゼンテーション(2)
         四家正紀(株式会社カレン次世代ビジネスリサーチ室長)
 15:30−15:40 休憩
 15:40−16:20 プレゼンテーション(3)
         伊藤昌亮(東京大学大学院;メル・プラッツ運営メンバー)
 16:20−18:00 トークセッション
         前田邦宏、四家正紀、伊藤昌亮
         司会:古川柳子(東京大学大学院;メル・プラッツ運営メンバー)

■概 要:

2年目に入ったメル・プラッツでは、市民によるメディア表現やリテラシー活動が蓄積する中で見えてきた課題や、それを取り巻くメディア社会の問題に対峙することをテーマにしています。そのため、教育やマスメディアの対抗という特定の枠の中で語られがちのメディアリテラシーを、より幅広い文脈の中で考えていくことを目指し、今回は「ネット社会」に焦点をあてた「現状を探る」公開研究会を企画しました。当日はメンバーの宮田さんの手により、いくつもの輪が広がるよう机が配置され、参加者の議論への参加を自然と促していくような場がデザインされました。いつもと同じ会場ながら何か新鮮な感覚を覚える中、司会の古川さんから、規制論などネット社会を語るアングルが難しい中で、概念を問う前にまずは何か起きているかを知ろう、と今回の趣旨が説明され、研究会がスタートしました。

<前田さんの報告>
暗黙知の連鎖的な掘り起こし 新たな価値の付与

現ユーザー数3万人に上るソーシャルメディア「関心空間」を立ち上げた前田さんは、7年前に自分たちが提供したのは、各自の「関心事をウェブに投稿 してつなげる」という単純な機能だけだったが、それが「教え合い」を生み様々な「ドラマチック」なことを起こしていった、と報告されました。

立ち上げ間もない頃、ご両親が徳島出身という前田さんが名産の「すだち」を取り上げ、おみそ汁に入れると書き込むと、職場の仲間は驚きながらも試し てみたらおいしかった、という感想をもらったそうです。自分が常識だと考えていることを言ったら驚かれたり喜ばれたりする、ということに気づくと共に、当 時わずか5名の社員同士という親しい仲でも、他人の趣味は埋まっていて見えないことがわかり、これが1000人にもなったら大変なことが起きるのではない か、と期待を覚えました。また、「つながり機能」によって、「かつ天」など徳島では普通なのに東京には無いものを教え合っていった例を挙げ、「関心空間」 ではこうした「ソウルフード」のような感情移入した情報がカード形式となっていて取り出しやすくなっていると説明。暗黙知が連鎖的に掘り起こされていく構 造になっており、くだけた内容ながら、ナレッジマネジメントの概念をリアルに実現している、と指摘されました。

次に「関心空間」の中の言葉を集めて自由に編集できる「コネクション機能」を取り上げ、他人のコンテンツで自分のコンテキストを生み出す「メタなレ ベルでの編集」が行われているとの話があり、「パステルヴィヴィッドな女子世界つながり」コレクションを例に、そうした視点、言葉の選び方には「プロの編 集を飛び越す瞬間」があると報告されました。前田さんは「関心空間」はユーザーの意外性と共感性に支えられ、コンテンツやメディア価値を新たに生む場に なっていると指摘。インターネットでは設計と運営次第でナレッジマネジメントを実現するコミュニティづくりが可能であるし、そこでは新しいコミュニケー ション規範が生み出されている、と語り、「学校裏サイト」などその「ダークサイド」が強調されがちなネット社会の前向きな捉え方を強調されました。

<四家さんの報告>
単独視聴からコラボレーション、混成的な創作活動へ

ウェブユーザーから湧き起こってくる集合行動に着目されビジネスへの応用を試みている四家さんは、CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)やUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)の興味深い事例について報告されました。

最初の事例は2002年の「ムネオハウスムーブメント」。「2ちゃんねる」の「テクノ板」で、佐藤宗男代議士の利権問題で取り沙汰されたサハリンの 「ムネオハウス」が投稿スレッドに取り上げられると、その語呂合わせから、政治家の答弁などをサンプリングしたメハウスモミュージックが投稿されました。 続いて様々なリミックス曲が発表され、ジャケットデザイン、ライナーノーツ、フラッシュムービーの制作やサーバーレンタルの提供、イベントの開催など楽曲 に関連した活動が広がっていき、そのクオリティの高さと共に大きな話題を呼びました。実にアルバム20枚分もの曲が生まれたというこの動きでは、自然と分 業が生まれ、単なる視聴ではないユーザーによるコラボレーションが実現した、と四家さんは話しました。その一方で、当時は現在の動画投稿サイト「ニコニコ 動画」のような場がなくインフラが個人任せで脆弱であり、制作活動、共同作業、発表スペース、いずれも限界があったと指摘しました。

次に取り上げられたのが2006年3月に行われたカーリング女子日本選手権のCGMライブ中継です。これは同年2月に開催されたトリノオリンピック で、「チーム青森」の活躍など面白さが認識されていたものの、テレビ中継のなかったカーリング競技の大会が、「2ちゃんねる」で実況された事例です。「実 況中継の神」などと呼ばれた現地の観戦者たちは、アスキーアート(文字絵)、テキスト、ライブカメラなど伝え方を進化させながら試合の模様を投稿していき ました。特徴的だったのは、独自のテキスト表記の発明やサーバーといったインフラ整備など、伝える、伝えられる両者が相互に中継が可能となるしかけを開 発、共有、補完し、一体となって実況を盛り上げていったことでした。この実況は話題となりマスメディアにも取り上げられ、その後カーリング競技のテレビ中 継が実現しました。

次に「涼宮ハルヒの憂鬱」というMXや千葉テレビの深夜帯に放送されていたアニメが、その品質の高さや手の込んだ特殊効果(ギミック)のなどからイ ンターネットコミュニティで話題となり、更にYouTubeと連動することで多くの人の目に触れ、2006年、2007年のDVD大ヒットに繋がったとい う例が紹介されました。更に「ハルヒ」ムーブメントでは、個人が編集・合成して再構成する「MADムービー」の制作など、国内外への様々な創造活動の広が りを報告されました。 最後に四家さんはネットの登場やデジタル技術の発展が「普通の人」「誰だかわからない人」を「メディアの人」にしてしまい、そこでは「職人」として発揮さ れるクリエイティビティとコラボレーションが展開されているとまとめ、今後考えるテーマとして、相対化されるマスメディアのリテラシー、こうしたCGMへ の接触・参加のリテラシーが挙げられるだろうと話されました。

<伊藤さんの報告>
メディアリテラシー概念の再検討 「創発規範」とコミュニケーションデザイン

プラッツの運営メンバーで東京大学院生の伊藤さんは「フラッシュモブ」や「マトリックスオフ」など国内外のインターネットを介して生じている集合行 動を紹介しつつ、情報モラルの危機意識が肥大化し規制が進む一方で、メディアリテラシーの取り組みは「批判の矮小化」、「表現の局所化」、「『汚染』の回 避」などが起きており、実践が萎縮していると現状を分析しました。また、マスメディア報道などに対する深読み、裏読みや表現することがあたり前となってい るネット社会では、批判的な読み解きと主体的な表現を基本概念とするメディアリテラシーがすでに追いつかれているのではないかと指摘、「基層」をキーワー ドとしたメディアリテラシー概念の再検討について論じられました。

伊藤さんは情報理論から派生したShannon-Weaverのマスコミ研究にしろ、記号論から発展したJakobsonのカルチュラルスタディー ズにしろ、いずれの研究も、「送り手」「受け手」の2つのレベルを設定した直線的な伝達型コミュニケーションモデルに基づいているが、ネット社会では「伝 達」ではなく参加者間の相互作用により理解が「共有」されていく、とRoger, Kincaidの螺旋収束モデルを提示しながら異なるコミュニケーションの有り様を指摘。こうした送り手/ 受け手の区別がなく、表象が焦点化されにくい、またその場ごとの参加者間の理解の共有で成立するネットコミュニケーションのメディアリテラシーでは、「社 会秩序」ではなく「場の空気」がもたらす「創発規範」に着目すべきであり、「社会秩序」を支える情報モラルの徹底など制度的アプローチではなく、「創発規 範」を生み出す「空気発生装置」としての「『場』のしつらえ」など実践的アプローチが有効ではないかと話し、リサーチに基づくコミュニケーションデザイン の取り組みを提案されました。

 *

トークセッションでは会場から外国の現状に関する質問や、日本独特のネット文化に関する質問が多くあがりました。特定の課題について集約的に議論す るという形にはなりませんでしたが、インターネット空間におけるメディアリテラシーのあり方について教員、通信キャリア、研究者などそれぞれの立場からの 意見が交わされ、参加者一人ひとりにとって、メディアリテラシーの次の展開を考える上で大きな刺激となる会となったのではないかと思います。(報告者:土 屋祐子/メル・プラッツ運営メンバー)


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